「Story Demo」配信記念
実弥島 巧 先生 特別インタビュー
『SCARLET NEXUS』本編の序盤ストーリーをお楽しみいただける 『SCARLET NEXUS』本編の序盤ストーリーを お楽しみいただける 無料体験版「Story Demo」の配信を記念して 『SCARLET NEXUS』メインシナリオ担当の実弥島 巧 先生に 『SCARLET NEXUS』メインシナリオ担当の 実弥島 巧 先生に 本製品のシナリオ制作に関するインタビューにお答えいただきました。 本製品のシナリオ制作に関するインタビューに お答えいただきました。
『SCARLET NEXUS』のシナリオ制作について
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01. 「脳と脳を繋ぐ」「人間の脳を接続して兵器にする」という設定や世界観の発想の元になったものはあるのでしょうか?
子どもの頃から『脳』に興味を持っていた。『脳』の可能性を感じていた。
実は子どもの頃から「脳」にとても興味を持っていました。「脳」の機能はまだ解明されていない要素も多く、潜在能力を秘めているんじゃないか、といった本を多く読んでいました。
当時読んだ本に書かれていた「脳はコンピュータみたいなものだ」という表現が印象に残っていて、アニメや漫画などフィクションの世界でもそういった設定が使われているケースを見てきたのもあり、漠然と「脳」の可能性を感じていました。
そして昨今、パソコンやスマートフォンだけでなく家電など様々なモノ同士が実際に繋がって、今まで以上に便利になり身近に活用できるようになってきたこともあって、人間の脳も同じように繋がっていくことができたら新しい力や使い方が出てくるのではないかと考えたのが発想の元になっています。 -
02. 実弥島先生のシナリオは、まず世界設定や本編で語られないプレストーリーを作られるとのことですが、これらは制作においてどのような役割を果たしているのでしょうか?
その世界の長い歴史の中の一部を切り取ってゲームに。
キャラクターの言動にその世界の過去の状況が反映される。ゲームの舞台となる世界がゲームスタートの時点の状況に至るまでには、当然その世界の過去の歴史が影響しています。物語が始まるまでにどのようなことがあったのかというざっくりとした歴史を開発の方に知っていただいたり、自分がシナリオを書くうえで考えた細かい要素を明文化して忘れないようにするために作っています。
自分がその世界の歴史を先に作っておきたいタイプであるという面もあります。
例えば、本作には「今日は怪異予報がゼロだったのに」といった会話のシーンがありますが、その発言の前提として、本作の世界では怪異の存在が既に当たり前になっていて、いろいろな観測によって「この時期、このタイミングだと怪異がこう落ちてくる可能性がある」といった専門的な研究が存在し、実用化されてきたという歴史があるから、ゲームの世界で生きているキャラクターがその言葉を発するという、その世界らしさを補強するための準備です。担当となった場合に必ず作るもの。開発にも共有していない設定もいっぱいある。
でも、全部カッチリ作り込まずに想像ができる隙を作っている。最近では、ゲーム制作においてシナリオライターが一人で全部書くということはなかなか無いので、各シナリオ担当者に世界観を知っておいてもらい、シナリオ本編にその世界に存在する歴史の地続き感が出るようにしておきたい、という目的もあります。
私が担当した他の作品でも、世界設定や本編で語られないプレストーリーは存在していて、自分が担当する場合には必ず作っています。
その中には開発の方にも共有してない設定もいっぱいあります。ゲーム自体の制作には必要がないものなのですし、ノイズになると困るので。でも個人的には、名前も付いていないようなキャラクターの設定を考えたり、その世界の中のどうでもいい事を想像したりして、遊びの設定を作っています。
ただ、全部をカッチリ作り込まないで、あえて想像ができる隙を作るようにしています。ゲームの場合は自分が能動的に主人公を動かすので、プレイヤーの皆さんがいろいろと想像できる余地がある方が面白いかなと思っています。 -
03. 実弥島先生は「敵キャラクターからお話をつくる」と伺いましたが、本作ではどのような流れでストーリーを組み立てていったのでしょうか。
SCARLET NEXUSは主人公が二人だったので、いつもとは違い主人公側から先に作っていくことに。
自分がシナリオを作る際には主人公の目的を設定することから始めることが多く、その目的を遂行するにあたって主人公が倒すべき相手を設定していくので、結果的に敵キャラクターから作る形になっています。
その為、普段は「主人公」と「ラスボス」という二極の立ち位置をもとに考えていくのですが、SCARLET NEXUSでは主人公が二人おり、お互いが敵対したり共闘したりという立ち位置でしたので、互いにとっての成したい中目的の障害が主人公になるよう、主人公を先に作りました。
その上で、主人公たちの大目的は何かと考えたとき、要約すると「世界を平和にする」ということになるため、そのためには怪異に脅かされている世界の仕組みを変える必要があるだろうと考え、その大目的を成すための障害となるラスボスはどういったものか? という順で考えていきました。
ただ、プレストーリーを考えた際に、怪異にボスがいてそのボスを倒す、というような話ではないというのは見えていましたので、今回はユイトとカサネが目指すべき道の障害になる敵とは? という作り方をしていくことになりました。過去の歴史からクリア後の未来にまで繋がるように全体を作ってゲームに使う部分を最終的に抜いてくるようなイメージ。
キャラクターの設定も舞台となる世界の設定も私にとっては全部『世界観』。ざっくりとした主人公像と敵を考えたら、次はゲームの根幹にあたる部分の世界観をぼやっと全体的に作ります。その上で、ゲームの要素である超脳力バトルや怪異を倒すこと、また戦う目的などを盛り込むため、ゲームの世界を過去から順番に固めていきます。
さらに「ゲームクリア後に続く未来はこうなるかな」というものを初めにふわっと決めておき、そこに繋がるように全体を作りあげます。一つの世界の長い歴史を考えて、最終的にゲームに使う部分だけを切り出してくるようなイメージで捉えていただければと思います。
なので、「何から作りますか?」や「どうやって作りますか?」という質問をよくいただくのですが、すごくお答えするのが難しいです。そのときに求められているオーダーに合わせて、主人公とラスボス、歴史や未来を含めた世界の設定を同時に作るという感じになっています。別々に作ってくれないかと言われることもあるのですが、キャラクターの設定も舞台となる世界の設定も、私にとっては全部「世界観」になるので、結局はまとめて作ってしまいますね。 -
04. 登場する個性豊かなキャラクターたちのはどのようにして生み出されていったのでしょうか。
パーティ内のキャラクターのバランスと、他のキャラとの関係性から設定を作っていく。
仲間キャラクターについては、パーティを俯瞰して見たときにどんなキャラがいるとバランスが取れるか、面白いかのベースを考え、そこに色付けをしていきました。
この人は怒りっぽいとか、真面目とかをふわっと決めた後に、誰とどういう関係性を持っているかを決めます。主人公とはどういう関係で、主人公以外に仲が良い人は誰なのかなど。
キャラ単体で構築していくというより、対になるキャラや縁の深いキャラを配置して、他のキャラとの関係性の中で設定を作っていく感じが多いですかね。
例えばキョウカの場合、単体のキャラ付けとして「料理が苦手」という設定を考えたとき、実際にそのエピソードが面白く見えるのは、料理を誰かに振る舞った時のその相手のリアクションなので、リアクションする相手も一緒に考える必要が出てきます。このように、相手との関係性をセットで考えるといった作り方をしました。基本的に誰が主人公のエピソードも作れるような『世界観』を作っている。
自分の場合、基本的にその世界の誰が主人公になってもお話が成り立つようにと思って作っています。
ユイトやカサネ以外のパーティメンバーを主人公にしたエピソードも、全員分やろうと思えば作れるようになっていると思います。ゲーム内に反映するかどうかは別として、「ゲームのシナリオが始まる前はこういう考えや感情を持っていて、終わった後はこういう感じに」という内容はふわっと考えています。
ゲーム制作における3Dグラフィックの作り込み等と同じで、「見えない・見せない」部分も作ってあって、たまたまメインストーリーでよく見えるように取り上げたのがユイト、カサネ、カレンだったという感じです。 -
05. ユイト、カサネの2人の主人公はどのように作られていったのでしょうか。
ユイトは感情的にプレイヤーと近い反応をするタイプ、カサネはプレイヤーからの共感を得にくいエキセントリックなタイプという色分けが初めからあった。
ユイトとカサネについては、感情的にプレイヤーと近い反応をするタイプと、プレイヤーが理解できない・共感を得にくいタイプに分けようという意識で作っています。前者に寄せたのがユイト、後者のエキセントリックなタイプがカサネですが、そうした色分けは初めからしていました。
また、主人公二人ということで、ゲームを2回プレイした場合に同じ味にならないように考えた結果、ユイトパーティは真っ当なパーソナリティの
ユイトに対して好感を持ってくれるようなメンバー構成、カサネパーティはエキセントリックで、メンバー個々が一癖あるものの目的が合致したときに一緒に力を発揮するようなメンバーで構成しました。
各パーティメンバーの超脳力の設定は、開発側からの指定があったので、まず超脳力に沿ったキャラクターをそれぞれふんわり作りました。そしてどこをどうしたら想定している各主人公と合うか、関係性を考慮しながらパーソナリティを載せては入れ替え、超脳力に合わせた特性や性格、相乗効果を考え、更に細かい設定をつけて調整していきました。
ゲンマを例として挙げると、防御の超脳力から「仲間を守る意識が強くてしっかり者で大人」のようなパーソナリティを考えていって、「大人の落ち着いたキャラなら真っ当なユイトパーティに入れよう」という感じです。 -
06. 2人の主人公に対するカレンの立ち位置やバランスについて考慮された点を教えていただけますでしょうか。
今回の主人公が二人だったことによって、結果としてカレンの存在感が強まった。
カレンエピソードのシナリオ演出がすごく良くて、自分が作った話なのに泣いてしまって恥ずかしい…!ユイトの視点、カサネの視点のどちらの人生から考えても、彼ら彼女らの成し遂げたいと思うことの障害としてのキーパーソンがカレンになることは意識しましたね。
その際に、全く関わりが無いキャラクターが突然現れるのではなく、二人にとっての何かしらの接点があった上で障害になるように考えて作ったのですが、これは主人公が一人の場合でもいつもその意識はあります。
本作でピックアップしたのが主人公とラスボスで、それが一対一の釣り合いではなく、今回は主人公が二人。ユイト&カサネのポジションと、カレンのバランスが取れるように作った都合上、結果として個人を見たときにカレンが重く見える存在になったのかもしれないです。
また、個人的な感想として、ゲームのカットシーンの演出がすごく良くて、自分で考えて何もかも知っている話なのに、特にDLC第3弾(カレンエピソード)の演出に入り込んでしまいました。自分が考えたシナリオはいつも遠くから見る感覚なのですが、最後の方のとあるシーンでウッと泣いてしまって恥ずかしかったです(笑)。あんなに素敵に仕上げていただけるとは思っていなくて、本当にすごく良かったです。 -
07. ズバリ、実弥島先生がご担当された「テイルズ オブ」シリーズのシナリオと「SCARLET NEXUS」との共通点や違う点はありますでしょうか。
テイストは若干似てしまうと思うが、リアリティラインが現代・現実に近い本作の方が劇中の人の生死や命の扱いがプレイヤーに重く映ることを想定した。
同一人物が書いているので、物語のテイストは若干似てしまうと思っていますが、「テイルズ オブ」シリーズと本作では、リアリティラインの持ち方が違っているように思います。
剣と魔法の世界を舞台としている方がデフォルメが効くというか、ある意味時代劇みたいなものと捉えられる部分が多いように思います。
SCARLET NEXUSでは、リアリティラインがより現代・現実に近いものとして作っています。
例えば、復讐劇や勧善懲悪のようなシナリオの場合、現代・現実で考えたらいろいろと気になる部分が出てくると思いますが、リアリティラインの持ち方次第で、読み手が「そういう世界観」として受け入れ、物語として見てもらいやすくなると思っています。
本作の設定では、そうしたデフォルメはあまり利かせられないという点、例えばキャラクターの生死に関わる問題などはプレイヤーにとっても重く映るという点を意識して考えるようにしました。 -
08. 序盤ストーリーのみどころや、シナリオ全体の注目ポイントを教えてください。
序盤は「日常の崩壊」を楽しんでいただければと思います。
新しい体験版でプレイできる「フェイズ2」までに意識したことは「日常の崩壊」。
ゲームの世界自体がプレイヤーにとっては非日常ですが、キャラクターにとっては日常です。その中で、この隊で怪異を頑張って倒していこう! というゲーム内の日常や目的に思えたことが実はそうじゃなくて。
フェイクがはがれて、日常はかりそめで嘘だった、という崩壊を序盤では意識しましたので、その「日常の崩壊」を楽しんでいただければと思います。全体では、主人公たちの選択に対して感じる思いを楽しんでいただけると良いかなと思います。
その後の本編については、ユイトとカサネたちそれぞれに困難がどんどん降りかかっていくのですが、彼ら彼女らがどのようにその困難を克服し、どういう未来にしようと選択するのかが重要なポイントとなります。
主人公たちのその選択を通して何を思っていただけるか、選択に対して「そうだよね」でも良いし、「いやいや、それは違うんじゃないか」でも良いし、そうした思いを楽しんでいただいたり、ストーリーとして見ていただけると良いかなと思います。「絆」の価値について、シナリオを通じてユイトやカサネたちの『孤独』と共に感じていただければと思います。
それぞれが自立せずに誰かに寄りかかっていては、「絆」は生まれないのではと考えました。一人の人間として誰に頼るわけでもなく、自分で考え自分で行動できる個が確立する「孤立」の状態があって、そこから互いに手を伸ばすから、手を取りあって協力できる「絆」は生まれるのではないかと。
単純に仲間だから助け合うというのもちょっと違うと思っていて、お互いが「孤立」していて「孤独」だからこそ「個」を確立できて、自分や相手に欠けているものが見えてくる。そして足りない部分を補い合うために「力を貸してもらえませんか」と手を繋ぐ。それが本作では超脳力の貸し借りという要素になっていて、システム上は「絆」が上がると強くなっていきます。
それは頼り・頼られてどちらかに負担がかかるということではなく、お互い対等な力を使い合うようなイメージで、対等だからこそ「絆」が生まれるのではと考えました。「絆」の価値は「孤独」によって理解できるというようなことを感じていただければと。
例えばユイト編では、ユイトが普段の頑張りやできることはまず自分で頑張るという、自立して対等な関係による絆を仲間と築いていて、だから、いざユイトが弱ってしまったときには、仲間との力関係が普段と変わり、皆がユイトを支えてくれる。
これがいつも周りに頼りっぱなしで、相手が一方的に負担を感じるような関係では、いざという状況で支えてくれる「絆」が強い関係にはならないのではと考えていました。
ユイトやカサネたちにはどこかに「孤独」があって「孤立」している。だからこそ結ばれた「絆」は尊く、強い。シナリオを通じての彼ら彼女らの「絆」と「孤独」を共に感じていただければと思います。 -
08. 最後に、これからスカーレットネクサスをプレイしたいという方にメッセージをいただけますでしょうか。
ユイトとカサネのそれぞれのルートでしか見えないこともあるので、よろしければ頑張って両方の主人公でクリアしていただき、確かめてみてください!